諏訪根自子さんをモチーフにしたものでは唯一の、そして文字通り"無比"なるアート作品。
恩地孝四郎さんの『あるヴァイオリニストの印象』
1946
"弓が力をこめて空へすり上る
この痩身のバイオリン奏者を照らし出す人工光
何といふ黄色い光であるのか
蒼白な顔面を、衣の白絹を
この肉體は戰乱の歐洲を通つて來た。
そしていま祖國の、占領軍下のステージに立つ
あゝ、骨身を削つてゆく弦と弦との擦音。
藝術は何と悲愴なものであるか
私の心臓は黄色くなり
泪もまた黄色くなり"
以前にも触れましたが木版画でありますこちらの作品、オリジナルは
40.5cm x 30cm 程の大きさ。勿論、ギャラリーで展示/販売される事も稀にありますが当時〜後年摺られたものの多くは博物館に収蔵されていてなかなかお目に掛かる事は出来ません。
よく海外で出回っておりますA4大のフォトプリントで$10位のもの多い中、徘徊していたある日、少し薄汚れた感じの小さなものが出ておりました。お値段は100€くらいで サイズは6インチ=15.24cm x 4.5インチ= 11.43cmと。"オリジナル"の記載あるも 約1/3の大きさであり明らかにその限りではないのは明白。然し裏の感じなんかから明らかにこれは表記の通り木版刷り特有の沁み込みを見る事が出来、どこか腑に落ちない。。。
???
贋物と簡単に片付けるには何か引っ掛かるモノがあって2〜3ヶ月程が経過した訳ですが結果こちらは…
『Modern Japanese Prints - An Art Reborn』
(Oliver Statler 1956)
に付属していたものである事が判明しました。
これは本の序文にもある通り
The Adachi Institute Of Woodcut Prints = アダチ版画研究所 安達豊久さんによる復刻作品です。
"アダチによる最高の技術を以っての描画、その魂まで忠実に表現された"
とある様に、只の復刻版画とは一線を画します。そのオリジナルにしましてもグレーの背景の部分ひとつとりましても年代/摺られた方によっても大きく表情を変えます。江戸時代の北斎や歌麿等を、現代に伝える技は同義で既にアイコン化したこの『あるヴァイオリニストの印象』=諏訪根自子像を身近に味合わせて貰うには過ぎた逸品だと云えましょう。
流石に66年の歳月は、表を傷めずに剥がすのに苦労しましたが…
その葉書大の縮小版が付録している。
1956年 初版。カバー折り返しには価格は$7.5と記載されており、僕の入手本は日本定価¥2,200と$6.0併記の逆角の所は何故か切り取られておりました。O.スタットラーは終戦後の進駐軍の管理官として来日し、日本の木版画に魅せられ恩地孝四郎さん含む多くの版画家とも交流を持ち作品を蒐集、この本を上梓。海外へその魅力を伝えた意義ある一冊です。
残念ながら恩地孝四郎さんはこの出版の前年の'55年に逝去しており、序文にも謝辞と哀悼の辞が述べられております。
「身近に味合わせて貰える」とは書きましたが、こんな羨ましき…
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ギャラリー青城さん
うう、いつか見せて欲しいな。。。